SSブログ

那珂川ツアー体験記 ~23キロ漕破で“大阿舎利”になった~ [旅をした]

●そろそろと。

講習を受けたのは6月下旬だった。なんとまあーふわふわしているものか…カヌーに乗った第一印象だったっけ。そして2度ひっくりかえった。ぼくだけだった。

しかし川面すれすれにみる江戸川の容姿は格別。陸(おか)で受ける炎暑の風もここでは涼風。“ふん、なかなかだぞ、とひとリごちたものだった。

翌週、おそるおそる江戸川に出た。そのへんにそろそろと漕ぎ出し、そろそろと帰ってきた。艇に当たって両膝が擦りむけた。2週後、そろそろと漕ぎ出し、ぐにゃぐにゃと運河の河口まで往った。そしてやはりそろそろと、ぐにゃぐにゃと帰ってきた。足が痛い。両くるぶしの外側が擦りむけていた。

翌週も川に出た。玉葉橋を往復した。1時間40分かかった。右舷を蛇が文字どおり“蛇行”していた。顔を向けようとして、ひっくり返りそうになった。だから、顔は正面、目で追った。蛇はその胴を左右に器用に振り、ぼくの視界からさっと消えた。ふん、蛇はぼくより“スウィープがうまい”。

その後合計3度乗り、1時間で玉葉橋を往復できた。それでもひっくり返りそうで左右に首を振れない。ひたすら前方を見るのみだ。蛇よ、来るな。

10/08タイムレイスに参加した。『玉葉橋を往復できればだれでもいい』と知ったからだった。ヨ~イドン。スタート時、艇とパドルが起こす波があれほど強いものとは知らなんだ。もうすこし早く漕げるかと思っていたが、期待に反した。やはり「ひよこ」は「ひよこ」だったのだ。

とはいえ、「ひよこ」も那珂川ツアーに参加した。自信はまだない。ただただ、仲間に入りたかったからだ。

8:30、艇庫を出発。一路、栃木県は馬頭に向かう。水戸インターで高速を降り、那珂川の流れに沿うように上流へ。九十九折の坂道に時折垣間見える那珂川は、折しも鮎釣りシーズン酣か。腰まで流れに浸かった釣り人たちの、川に沿って点々と続く黒いシルエットは、五線譜に描かれた音符さながらだ。“ヒョエ~、こんなにいっぱいいる釣り人のあいだを縫って川下りかヨ”。自分の腕をあらためて思い起こして不安になった。

●幕はあいた。

テントを張り終えて練習へ。那珂川上流へ30分も走ったろうかスタートした地点の流れは、江戸川とはまったくちがったものだった。水はきれいだが、流れが速い。川上に向かって左側から離岸してすぐさま右にターンして本流に乗れといわれても、“はい、そうですか”とは簡単にいきそうにない。流れに対して艇の左舷を引き上げるようにしないとチンするヨと教わる。“沈も朕も狆もあるか、そんなこと急にいわれてもできるはずないぞ・・・”覚悟を決めてパドルをつかいはじめた。

げっ!これで練習か。流れが速い、そして複雑だ。深いところ浅いところ。右から来れば、こんどは左側からも波が来る。江戸川のように一定ではない。右には岩があるから行っちゃダメ、といわれても水流で持っていかれる。

 かと思えば、いつのまにか先へ先へと。隊列があったはずなのに、だ。川には落ち込みもあれば、とつじょ流れが速くなるところがあるという。この川の声とでもいうべき状況を先読みできない初心者は、隊列の中で、きちんとくっついていくしかないらしい。急激な状況の変化に対応できる腕を持っていないからだ。ナルホドね。

 そういえば往路の車中だ。A木さんとM子さんの会話が聞こえてきたっけ。“結局のところ、(カヌーって)絶対安全だとはいいきれないんだよね”。

 でも、小波の立つ合流水域を一気にぬけるときはたのしかった。そ~れ、もっと来い、と思ったものだった。そして、キャンプの夜。たのしかった。初秋の河畔、酒うまし、ほうとううまし。『各自食器をもってこいよ』といわれていたのに、忘れた。(D井さん、K林さん、食器ありがとうございました。下野新聞・地方版に『那珂川河畔に男の死体。キャンプの行楽客か。馬頭警察署の発表では死因は餓死。事件性はなく、まぬけな事故と断定』とあやうく載るところでした)

●水神降臨せず。

 車3台で上流の出発点へ向かった。1台はキャンプ地に残し、帰着後に1台に4人で分乗、出発点へ3台の車をとりにいくという。“どうするんだろう?”と深い謎だった。(地下鉄漫才の春日三球ならば“夜も眠れない”となるところ)・・・こういうからくりだったのか。カヌーイストはアタマがいい。

出発点までどのくらい車に乗ったのだろう。今回はとくに長く、これまでの5割増し、全長15キロを下ったとは後日の談。

ぼくひとり、5度沈んだ。なかには、「沈」をいちどはこらえて完全にもちなおした直後、どうということもない状況だった。水温は思ったほど低くはない。しかし、流れは川面からの見た目よりも速い。沈んだ直後、初めて着用したスプレイカバーを外しにかかる。あわてはしなかったが、とにかく水流で体がよじれる。ライフジャケットをつけているせいか、上半身は水面に向かい、しかし下半身はガッチリと艇の中。水中で「Jの字」をつくってもなんの意味もないではないか。足が着いたり着かなかったり。『手離すな』といわれているパドルをもったまま思うように動きがとれない。すさまじい勢いで流された。

そうだった。A木さんもいってたっけ。“結局のところ、(カヌーって)絶対安全だとはいいきれないんだよね”。あの流れの中で、岩にもっていかれれば、運が悪けりゃ出血多量もありうるんだ。

そういえばK見さん。ウィスキー、ごちそうさまでした。からだが冷えると疲労感が増す、とか。寒中ゴルフで、コッフェルにしのばせて、ちょくちょく一杯やったものの、まさかカヌーで気つけ薬を飲む羽目になるとはなぁ。

右手の親指内側が痛い、腹筋も背筋も悲鳴をあげている。前傾の姿勢を保てない。えい、ままよ。親指をはずし、5本ともにそろえてパドルを握りかえる。姿勢は前傾をやめ後ろに寄りかかる。“流れが緩やかなところならいいだろう”。

どっこい、川は生きていた。いつのまにか流れが変わっている。先が読めない初心者だ。合流点、右に行かなきゃ行けないのに、曲がれない。左のパドルが川をとらえられない。あざわらうように空を切る。握りかえた右手の位置がずれていたのだ。向きをかえようと右のパドルで右舷を抑える。無理だった。またもや右舷にドボン。こりゃ、行(ぎょう)だ。スポーツを超え、行だ、それも荒行だ。

●公式発表は23キロ。

帰着当夜、掲示板にK見さんの記事を発見した。“公式発表”によれば、『計ってみると23kmのロングランでした』。えっ??? 15キロじゃなかったの?

やっぱり荒行だったんだ。しかし、こうして、わたしは大阿舎利になった。

     ----------     ----------

●お礼。

Aさん、水面におどる50センチhigh(?)の波をくぐっているときの『ガンバレッ』のひとこと。ありがとうございました。あれがなければ茨城新聞・地方版に『大洗海岸に溺死体。腐乱進み性別不明。このまま放置か?』とあやうく載るところでした。

M子さん、細腕での帰路の運転。ありがとうございました。“手弱女”にして、しなやかなパドル操作、脱帽です。了


nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:日記・雑感

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:[必須]
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。